"小説・転校生"の記事一覧

田舎の転校生 72 あっという間の六十年

(承前)  上って休んでゆけと何度も勧められた。着く前から何となく会えないような予感がしていた。会わない方が良かったのかも知れないと、理由にならない理屈をつけて、自転車を引きずり大川の土手にそのまま投げ出すと、人気のない河川敷に出た。  気のせいか神楽のお囃子が風に乗って肩の辺りを通り過ぎた。草いきれの中に寝転ぶと、綿菓子のように自…

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田舎の転校生 71 神楽の頭を訪ねる

(承前)  真顔の頭は、もう少しだけ話をして祠を後にした。    『大市を知っているか?』    『知ってる』    『わしは、大市に住んでいる。大橋は知っているか?』    『知ってる。何度か通ったこともある』  頭の家は、大橋の近くにあり、神楽の看板も出ているから、すぐ分かると言う。尋ねて来たら歓迎するとも言った。もう、…

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田舎の転校生 70 

(承前)  刃渡り四十センチ余りの刃は、その三分の二ほどが、見る見る内に頭の口から体の中に吸い込まれ、見物人が息をのんだ一瞬、頭は刀の鍔から手を離し、両手を相撲の土俵入りの様に左右にぱっと広げてみせた。  拍手喝采。ご祝儀を懐に、帰り支度を始めた獅子舞の連中。何となく別れがたい気持ちがある一方、近づき難い雰囲気も漂う。田畑に添いうね…

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