唐古・鍵遺跡の落とし物
(復元された遺跡内の楼閣)
西暦2025年の八月ひとつの「発表」をマスコミが取り上げ、古い事柄に
格別の関心がある一部の人たちの注目を集めました。
奈良県田原本町にある唐古・鍵遺跡は弥生時代の前期頃に成立して、
古墳時代の前期、今から千七百年前頃まで数世紀以上も人々の営みが絶える
ことの無かった著名な環濠集落遺跡なのですが、今年の八月に行われた合同の
調査において、遺跡内に在る「井戸」から金属片が見つかり、それが検査を経て
「鉄製の斧」を再加工した物であることが判明したのです。
お隣の大陸製だと考えられる、その鉄斧は「紀元前一世紀から紀元一世紀」頃
に使用されていた物らしく、研究者の一人は、それが『青銅器製造などの工程で
私用されていたのだろう』とコメントしています。
従来、鉄は国産化が遅れていたため、素材の全てを海外に頼ってきた、という
見方が支配的ですが、今度見つかった鉄の斧も、当然、大陸で製造された後、
海原を超えてはるばる国内にもたらされたと想像できます。
二千年前の大昔、古代の冒険心に燃える人々が正に命がけで運んできた鉄製品の
原材料なら、当然、宝物扱いされていたと筆者なら思うのですが、この遺跡で
物づくりを担っていた人は、どうも、そうは考えていなかったようです。
何故なら、斧が落ちていた井戸の「深さ」は、およそ1.2mしかなく、底には
土器やガラス片も在ったと発表されています。成人の腰上の高さの水深であれば、
若し「間違って」落としたとしても、潜れば、直ぐに回収することが可能です。
斧と言っても、その鉄の塊は小さなものでしかありませんが、本来の使用目的を
果たしたのであれば、鍛造して小刀くらいは作れたかも知れないのに、何故、
井戸に放り込んだのか、不思議でなりません。
楽しく歴史や文学に親しみましょう

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