天照御魂社 8 櫛玉は天津彦根命

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承前

 一方、出雲国造家の分家とも云うべき北島家(出雲宿禰)の系図を見ると、

  天穂日命ーー武夷鳥命(又、天夷鳥命)ーー伊佐我命(櫛瓊命)
  ーー津狭命ーー櫛甕前命ーー櫛月命ーー櫛甕鳥海命ーー櫛田命

の通り「」を含む名称を持つ祖神がずらりと並び、三代目の伊佐我命は「櫛瓊=櫛玉」の別名を持っていたことが分かります、また、葛城氏のページなどで紹介してきた古代氏族「難波田使首」の系図には、

  高魂命ーー伊久魂命(註・天活玉命=天照大神)ーー天押立命
  (又名、神櫛玉命)ーー陶津耳命ーー玉依彦命ーー生玉兄日子命

の神名が綴られ、陶津耳命の父親にあたる天津彦根命の別名が「天押立命」であったことも分かります。さらに、その陶津耳命(少彦名神)の後裔で、氏族名としては「鴨縣主」で知られる山城国の中島氏家系でも、

  高魂命ーー伊久魂命ーー天押立命(又名、神櫛玉命)ーー陶津耳命
  (陶荒田神社)ーー玉依彦命ーー剣根命(葛城国造)ーー夜麻都俾命

と同様の尊称が伝わっていることから「櫛玉」が本来はアマテラスの息子の一人であった天津彦根命に捧げられた由緒あるものだと判断できます。従って、ニギハヤヒに冠された「櫛玉」の二文字も当然、彼が天津彦根命の家系に属している事実を示したものだと考えられ「天照国照」の称号も、記紀などが云う「女神」としてのアマテラス神ではなく、ニギハヤヒたち天孫族の祖霊を表わした文言ではないかと思われます。

 その傍証として物部一族の亀井氏(穂積臣)が伝える系図には、明らかにアマテラスではない「天照御魂太神」が天忍穂耳尊の父親として名前が記されている事実があげられるでしょう。なお「東国諸国造系譜(伊勢津彦之裔)」では伊佐我命を伊勢津彦命と同神とし、その又名を櫛八玉命と伝えていますが、関東に早くから進出した物部氏族である氷川神社の神職・西角井氏の系譜には「伊佐我命(一名、櫛八玉命)の兄弟」を「出雲建子(櫛玉命)」とする記事があり、出雲国造の祖をニギハヤヒと同人とするよりも、むしろその近しい縁者(兄弟か子供)と考えるのが穏当なように思えます。

 ただ、一つだけ気がかりなのが先代旧事本紀が云う「宇摩志麻治命が生まれる前に饒速日尊が亡くなった」(天神本紀)という趣旨の記述で、ニギハヤヒの実像調べには尚考えるべき余地が残されていると言えます。

nanba-tatukai1.png 難波田使首の系譜より

 (終わり)


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