狸と狐 7 分家
(承前 月を愛でつつ構想を練るタヌキ)
男は日曜日を休息のための日と決め、その日だけは少しだけ遅くまで就寝している。
だが「休み」の日であっても野良に出で田畑の世話を焼くことが無いというだけで、
家の中で出来る仕事を見つけては精を出す。
彼には家財と呼べるほどの持ち物は殆どないのだが、農作業に必要な物については
意外なほど数を揃えて保有している。
それは、かつて近くで営農していた隣人たちが里へ、町へ降りて行く時、
鋤鍬や鎌鋸などの農具を一つ二つずつ「置き土産」にしてくれたお陰だ。
中でも本家の宗一さんが最期の片づけに来た折渡してくれた大鉈は、
いつも羨望の眼差しの先で輝いていた逸品で、今や男の宝物となって、
普段は壁に特別な掛け具を取り付けて大切に「飾って」いる有様だ。
爺さんタヌキから聞いた所に寄れば、男の何代か前の頃、
当時は林業と農業を併営していた本家の敷地内に、ある日小さな家が建ち始め、
屋根が葺き終わると同時に一組の男女が棲むようになり、何年かして子供も
生まれ、小さな田んぼも任された。
近隣の住人が本家の当主に夫婦の素性を尋ねた処、
『あれらは、家の分家のようなものです』
と答えたことから、皆、何々さんの分家の誰それと呼ぶようになった。
しかし、爺さんが夜な夜な集落を徘徊しながら集めた情報によれば、
『それは、表面上そのように取り繕っているだけで』
『本当は親戚筋でも何でもない赤の他人だ』
と皆、噂していたのだとか。
どちらの言う事が真実を伝えているのかは分からない。
ただ、男は、自分のことを何々さんの分家だと今でも信じている。
今日は全ての鎌と鍬を研ぐ日に決めたようだ。
(続く)
楽しく歴史や文学に親しみましょう

この記事へのコメント