天照御魂社 1 アマテラスとは別神

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 例えば旅の途中に、ふと立ち寄った見知らぬ土地で、たまたま通りかかった細い路地を抜けた向こう側に、こんな変わった名前の神社が若しも佇んでいたとしたら、貴方は、一体どのような神様をお祀りしている社だと思いますか?(別に「旅の途中」でなくても構わないのですが、こんな風に書き始めた方が何やら物語っぽくて、とっつきやすそうな気がしたもので…)それはさておき。

 国道沿いの、いつも渋滞ばかりしている交差点のすぐ傍に社らしいものがあることは、かなり以前から分っていた。数百メートルばかり北側に十年来の通勤路が走っているのだが、その路と南北に交差する道端に、近頃の歴史ブームに刺激され設置されたのではと思わせる道案内の標識があり、そこに神社の名前が矢印と共に麗々しく記されていた。

 これは「にいやにます、あまてるみたまじんじゃ」と読むのだそうで「天照」は「アマテラス」とは読まない。「新屋」は土地の古い呼称を冠したものだと思われるので、「天照」という神様の「御魂」をお祀りした社であることに間違いありません。

 ただ、社の名前にわざわざ「天照」の二文字を掲げながら「アマテラス」と読ませないのは何故なのか?ここで、いささか不謹慎な妄想が沸々と湧きかけたのですが、資料も確かめずに不確かなお話しを進める訳にも参りませんので、少々遠回りにはなりますが、神社が平成十一年に刊行した書籍などを参考にしながら、古代の摂津を散策してみることにいたしましょう。

 先ず、初めに訪れた「新屋」さんは二つある分社の一つで、もともと物部氏の始祖・伊香色雄命(いかがしこお)によって大和朝廷時代の初期(社伝によれば崇神天皇七年秋九月)に築かれた本社は、大阪府茨木市福井(旧・摂津国嶋下郡新屋郷福井村)にある立派なお社で、その祭神は「天照国照天彦火明大神」「天照皇御魂大神」そして「天饒石国饒石天津彦火瓊瓊杵大神(あまにぎしくににぎしあまつひこほのににぎのおおかみ)」の三神であると説明がなされていました。

 ここでは、明らかに皇祖神のアマテラスと、その孫のニニギノミコトが合わせて祀られているのですが、主祭神は「火明命(ほあかりのみこと)」となっているのです。「国譲り」神話や「天孫降臨」神話をご存じない方のために、敢えて説明を加えますが、記紀などによればアマテラス大神が、自分の直系子孫であるニニギノミコトに「瑞穂の国」つまり日本国(は皇孫たちが『当然』治めるべき所であるから、直ちに、その国)を治めるように指示し、天の神々から力づくの要請を受けたオオクニヌシたちが、条件付きながら自ら治めていた国を天孫(アマテラスの子孫)に譲った、という筋書きの物語りが「国譲り」神話の中核を形作っているもので、その主旨は天孫たちが「当然」治めるべき国に「天降った」と云うものです。ここで、極、素朴な疑問が持ち上がります。

 (続く)



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