指先が消えてゆく夢
そのバスの行先には興味の持てる場所がなかったので「私」は一旦降車したのだが、
思い直して発車の寸前ドアが閉まりそうな時に飛び乗った。
大きなカーブを幾つも幾つも曲がりながらバスが山裾の田舎道を進むと
山肌の一角に造成した花壇が置かれ、チューリップの葉を大きくしたような花が、
水色の、青白い控えめな花が沢山咲いていた。
ただ箱庭のように区画された一帯は情緒に乏しく、余り興が湧くと言うこともなかった。
不思議な事に花壇の奥に、黄色い布切れのような物で着飾った、
とても大きな牛か何かの様に見える動物が頻りに草を食んでいたのには驚いた。
暫く登って行くと、どうやら終点に着いたらしく、運転手は、
バスを少し広めの農道に乗り入れ、何度も切り返してバスの向きを直した。
ここで一旦降りるべきなのか「私」は一瞬迷ったのだが、
もう一人居たはずの乗客の姿も運転手の姿も見えない。
『やはり降りよう』と考えた「私」は座席の下にある床を確かめようと
下を向いた時、異変に気付いた。前の座席に付いている手擦りを掴んだ
左手の小指の先から、何か白い粉状の物が少量落ちている。
見続けている間、チョーク粉のような幾分キラキラとした細かい砂のような
物体が落ち続け「私」の指先は爪だけを残して無くなってしまった。
恐怖心が湧いた「私」は誰かに助けを求めるべきなのか、考えた。
楽しく歴史や文学に親しみましょう
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