田舎の転校生 71 神楽の頭を訪ねる

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承前

 真顔の頭は、もう少しだけ話をして祠を後にした。

   『大市を知っているか?』

   『知ってる』

   『わしは、大市に住んでいる。大橋は知っているか?』

   『知ってる。何度か通ったこともある』

 頭の家は、大橋の近くにあり、神楽の看板も出ているから、すぐ分かると言う。尋ねて来たら歓迎するとも言った。もう、次の土曜日の夜までに、訪ねる事に決めていた。

 はっきりとした理由は見つからなかった。行けば何かが分かるように思えた。自転車でおよそ1時間、記憶にある大橋のたもとまで辿り着くと、大看板が直ぐ眼に留まる。建物には小奇麗な板塀が張り巡らされ、瓦葺の門構えの造りになっており、門扉は大きく開かれている。玄関まで続く数メートルの石畳には打ち水が施され、訪れる者を和ませた。

 二間はある真新しい玄関戸に気後れし、横手の裏木戸を探したがきちりと錠が下りている。息をニ三度大きく吸い込み吐き出し、意を決して戸を開き案内を請うと、二十歳そこそこの男性が直ぐ白木の衝立の向こうから顔を覘かせた。子供の姿を認めた彼は、怪訝な表情をほんの一瞬浮かべたが、直ぐ、笑顔になり話し掛けた。

  『木庭さんのところからですね』

  『そうです、訪ねて来いと、この間言われたので』

  『聞いてます。ただ、生憎、今日は他行していますから…』

  『たぎょう?』

  『あ、仕事に出かけてるんですよ、昨日から。少し遠方まで』

  『そうですか。じゃあ、仕方ないですね』

  『若し、来られたら、宜しくとのことでした。いつでも、お出でくださいと言ってました』

(続く)

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