田舎の転校生 70
(承前)
刃渡り四十センチ余りの刃は、その三分の二ほどが、見る見る内に頭の口から体の中に吸い込まれ、見物人が息をのんだ一瞬、頭は刀の鍔から手を離し、両手を相撲の土俵入りの様に左右にぱっと広げてみせた。
拍手喝采。ご祝儀を懐に、帰り支度を始めた獅子舞の連中。何となく別れがたい気持ちがある一方、近づき難い雰囲気も漂う。田畑に添いうねうね流れる小川を逆上り、目当てと思しい小さな祠の境内にたどり着いた一行は、遅い昼飯に舌鼓。
どういう訳か付いて行った。
『ぼん、ぼんは、さっきの家の子か?』
かすかに頬を酒気で染めた頭が、どこまでも着いてきそうな子供の気配を気遣い声をかけた。よく見れば背も高いが顔が異様に大きく、手足も並の人と比べ相当長い。
『いや、そうやない』
『‥なんや、よその子か。大阪から遊びに来ているんか』
『神戸から来たけど、遊びやない』
咄嗟に関西弁が飛び出したのは、恐らく神楽人たちの話していた言葉の持つ不思議な抑揚が、かつての素の言い廻しを誘い出したのか。黙々と飲食を続ける他の者とは対照的に、意外と頭は饒舌だった。
『そおか、神戸から来たのか。遊びでないなら、どおして、ここにおるんか』
『転校してきたから』
『そおか、神戸からなぁ。神戸という町は良く知らんが、ここと、どっちの方が良いと思うか?』
『…、』
(続く)
楽しく歴史や文学に親しみましょう
この記事へのコメント