田舎の転校生 69 大道芸の極致

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承前

 『……わが美し大八洲の瑞穂の国に、遥か遥か神代の昔より、

  連綿と今に伝えられたこの大神楽こそ、いと賢き天照大御神が、

  天の岩戸前に集い賜う神神と共に興ぜられた、天宇都女命の寿ぎを舞の業で人の世に、

  教え伝えた有り難いもの……お家は隆盛、子孫は栄え邪鬼退散、目でたし、目でたし。

  さて、神ならぬこのわたくし奴も、畏くも有り難い天照大御神、

  大国主命はじめ八百万の神神のご加護の下、十余年に及ぶ尋常ならざる行の甲斐あって、

  神通の力を少しく会得いたしました。さて、お立ち会いーー、

  お家繁栄を願う穢れない心の証として、

  ここに取り出だした剣の刃を、見事呑んで見せましょう』

 先触れの男が無言で差し出す派手な絹布をくるくる解き放つと、現れたのは六十センチ程の見事な脇差。頭は両手で刀を捧げ持ち、目の高さに掲げて一礼。何やら呪文のような呟きを二言三言となえると、一気に刃を抜き放ち宙をにらむと、逆手に白刃を持ち替え、静かに切っ先を己の口元に近づけた。

 お神楽と大道芸は元々親戚筋に当たるのか、赤の他人に過ぎないのかなど一度も考えてみたこと無かったが、頭の芸は圧巻だった。

 「見せ物に違いないんやけど、ほんまに、はらはらドキドキさせられた。

  でも、その時は、なんで神楽の人が、そんな芸をそこで見せるんか

  疑問にも感じへんかった位、自然な流れやったね」

(続く)

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