田舎の転校生 67 才女は仏留学を望む

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承前

 進子が有る事無いこと取り混ぜて、広げるだけ大風呂敷を広げた様子、手に取るように目に浮ぶ。

 些かあきれてしまい物をも言えず、完全無視のまま帰り支度。君子危うきに近寄らず、と古人も言ったではないか。ところが件の才女、尚なお、頬を膨らませて、一歩近づき、

  『私には、貴方に手紙を書く自由がある』

  『私に、この様な申し出をさせた人は、

   この世に僅か一、二名しかいないのだ』

  『私は、近い将来何々大学で、フランス文学を学び、留学する計画も持っている』

と力説し、反応しない田舎者の説得に余念がなかった。

 流石に、

  『貴方には手紙を受け取る義務がある』

とまでは宣わなかったが、自由博愛、男女同権、舶来万歳の思想家と見てとった。

 思い込んだら命懸け、何分、確信犯の趣十分。話して分かる相手とも思えない。取り合わず早々に立ち去るのが一番と歩き出す。背中で沸き上がる嬌声一頻り。祭りの気分は瞬く間に吹き飛んだ。

 雌猫がこの時とばかり勇んで付焼刃の飛脚便を開業し、親書の返事を督促したのは言うまでもない。

(続く)

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