田舎の転校生 53 硬派は実力で勝負

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承前

 他人はどうであれ、自己の内側に在る様々な思い、疑問、不信の元となっている事柄を一つずつ、根気よく、日々真面目に検証することが、より確かな自我像を得ることに繋がり、ひいては偏りのない価値観に、しっかりした肉付けを施す結果にもなるのだと言う考え方に思い至るまでには、かなりの量の時間が浪費され続けた。

 理屈は抜きにして、勉強するよりは遊ぶ方が無論楽しい。良ちゃんは、理屈からは縁遠い性格で、とにかく学校内外で楽しく遊ぶことに生き甲斐を見つけていた。不良にも、硬軟の派閥があり、陰陽の区分が厳にある。

 三学期も半ばになると進級への喜びが徐々に大きく膨らみ、クラス分けも気掛かり。各グループの頭目、勢力争いなども一巡、二巡して、揺るぎない、眼には見えない絶妙な力学模様が生徒間に描かれる。合従連衝は世の習い、長い物には巻かれろ、寄らば大樹の陰が当り前の、この世界。後ろ盾の無い者に、才覚を思う存分発揮出来る機会は、そうそう巡ってこないもの。

 良ちゃんは、年上の兄弟が、既に数年前、卒業生となっていたため現役上級生たちへの影響力に乏しく、出身小学校時代からの数少ない友達の他、余り地盤の拡大には熱心ではなく、気のおけない者同志の付き合いを優先させ満足している風情。

 所謂、町の小学校から来た生徒には、結構口の達者な連中も多く、二学期の頃には見かけの勢いだけでクラスを仕切ろうとする属もいたのだが、実力に物を言わせる本格派が頭角を現すと共に次々姿を消し、学年でおおまか三つ位の塊に集約された。

 実力一本の硬派、実力第二格好第一の軟派、無暗に張り切る武闘派の内、良ちゃんが所属するのは硬派なのだが、彼には独特の明るさがあり、他の陰気さを引きずる領袖とは一線を画していた。

(続く)

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