柿本人麻呂の謎 12 小説の参 難題

(承前)  紀貫之が、何時の日にか公にする事があるかも知れないと密かに思い、下書きとして暖めていた「歌論」に筆を加え、蔵人所を通じて「仮名序」として奏上すると、再び、藤原時平からの呼び出しが掛かり、邸に出向いたのは三月になった初めの日の午後であった。野辺に草花が満ちていた。草いきれが何処までも貫之の体に纏わりついて離れようとしなかった…

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個展に来た狸の夢

バス道から、少し奥に入り込んだビル街の一角に、細長い建物があって画廊が商いをしている。「私」は、地下にある小さな部屋に出来たばかりの作品を幾つか展示し終えて、上の階に出品している先輩格の画家に挨拶しようと階段を上ったのだが、朝、早くなのに先客があり、部屋の入口に立ち、自己紹介をしていた。スーツ、ネクタイの衣服を身に着けたその大柄な男性は…

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柿本人麻呂の謎 11 小説の弐 選抜

(承前)  母屋から五十歩ばかり南西に離れた場所に建てられた家屋は、二方に生垣が廻らせてあり他の建屋から繋がる廊下などは設けられていないようにも見える。部屋は五つばかり、開け放たれたその内の一部屋が巻物と書物で埋め尽くされている。  式台の前で立ち止まり、座敷に上がらせて貰えるものかどうか戸迷っている紀貫之が手持ち無沙汰にしていると…

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