石坂洋次郎

昭和三十六年(1961)三月、地元の小学校を卒業した年、中学一年の夏休みに転居、転校した。親から「引っ越し」を告げられたのは数日前のことで、誠に慌ただしい旅立ちだった。学用品と、幾つも無い「宝物」を木箱に詰めて先に送り出した。本当に間違いなく届くのか、少し不安だった。 カルチャーショックと一言で済ませるのは簡単だが、街で育った子供にと…

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しょ

昼休み時間が終わろうとする時、教室の隅に一人の女生徒を囲むように数人が集まり、何やら深刻な表情で話し合っている。輪の中心に居る子は、今にも泣き出しそうな顔で、頻りに何かを訴えているようだった。   A子さんが、なんだいしとられん事は、みんなしっとおけん、  B子のいう事は気にしたらいけんよ。  ほんに、こなは「しょ」だけん、みんな、そ…

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少年探偵団

小学校の本館は、どっしりとした造りの建物で、三階部分が講堂になっていた。東に面した図書室は角部屋なので採光がとりわけ良く、本棚に並んだ様々な図書は、まだ自分で「書物」を購入したことの無い子供たちにとって、取り分け筆者にとって、宝の山の様な貴重な空間だった。 利用するようになったのは高学年になってからだと記憶しているが、一番のお気に入り…

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